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篠田 真貴子-「人事ビッグバン」の今、 人事に求められる役割とは何か

篠田 真貴子

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2026年01月29日

人材の流動化や人手不足、生成AIをはじめとする技術の進化などにより、バックオフィスのあり方は大きく変わろうとしている。こうした中、人事には何が求められ、どんな能力を伸ばすべきなのか。経営や組織開発、人材育成など幅広い領域で実績をあげられてきた篠田真貴子氏に聞いた。

(※本記事は、2026年1月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)

白谷輝英 ≫ 文  梅沢香織 ≫ 写真  須藤真由美 ≫ ヘア&メイク

篠田 真貴子(しのだ まきこ)

篠田 真貴子

エール株式会社 取締役
慶應義塾大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入社。ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA、ジョンズ・ホプキンス大学国際関係論修士の学位を取得した後、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマを経て、2008~2018年まで東京糸井重里事務所(現・ほぼ日)のCFOに。2020年、オンライン1on1を提供するエールの取締役に就任。経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会」委員、メルカリ社外取締役なども担当。著書に『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(共著・ダイヤモンド社)『デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』(共著・英治出版)などがある。

労働市場流動化を背景に人事領域にも変化が

 25年以上前に金融業界周辺で起きたことが、今、人事の世界でも進んでいる。それが私の見立てです。
 1998年、日本では「金融ビッグバン」が起こりました。これは銀行・証券・保険の3分野で進められた大規模な制度改革で、金融機関が携われる業務の範囲や、金融商品の価格設定など規制が緩和されたのです。それにより、金融業界以外の企業にも大きな影響が及びました。

 それまでの日本企業では、財務・経理部長が大きな権力を握っていました。当時の資金調達方法は、金融機関からの借り入れが中心。そのため、銀行との関係維持を担当する財務の重要性が高かったのでした。財務・経理部門で長年にわたって決められた通りの仕事をこなし、役員へと出世する人が、かつてはたくさんいたものです。

 ところが金融ビッグバン以降は、状況がガラリと変わりました。自由化が進んで企業が社債発行や増資などでも資金を調達しやすくなったことで、経理部長の地位は相対的に下がったのです。一方で誕生したのが、財務戦略を立て、自社の株式や債券を買ってもらうために金融市場に働きかけるCFO(最高財務責任者)でした。ルーティンワーク中心で、正確性や堅実さが重視される財務・経理部長から、「攻めの財務」を担当するCFOが重視されるようになったわけです。

 人事の世界でも、昔の金融業界周辺と同様に、大きな地殻変動が起きています。

 終身雇用制を維持している日本企業は、今や少数派になりつつあります。一方の労働者側も、生涯にわたって1つの企業で勤め続けようと考える人は少なくなったでしょう。特にコロナ禍以降は、こうした傾向が強まったと感じます。いろいろな企業が中途採用を増やし、人材市場の自由化は加速する一方。今は、いわば「人事ビッグバン」のまっただ中と言えます。

AIは人事の雑務を楽にしてくれる味方

 人事を取り囲む環境が変われば、当然、果たすべき責務も大きく変わります。企業で経理部長からCFOへのシフトが進んだのと同じで、人事の世界でも攻めの姿勢が求められるはずです。ルーティンワークをこなすだけでなく、人事戦略を立て、自社の働きやすさを労働市場でアピールして人材を集める取り組みが、これからの人事には求められるでしょう。

 ところが、そうした変化に対応して戦略的な業務に力を注いでいる人事は、まだまだ少数派です。その背景にあるのが、人事の忙しさです。

 ほとんどの人事は、限られたリソースで目前の仕事をこなさなければなりません。そのため、過去に行った業務を繰り返すだけで精一杯という状況に陥りがちです。例えば社内研修をする時も、準備して研修を実施し、受講者アンケートを集計したらそれでおしまい。現場にインパクトがあったのか検証するなど、未来に向けた仕事に取り組む人事はあまり多くないと、私は感じています。これは現場レベルのスタッフだけでなく、人事部長レベルの人にもそれなりに当てはまる話です。

 そういう意味で、生成AIの進化は人事にとって大チャンスかもしれません。人事の中には、AIに仕事を取られると危機感を覚えている人もいるでしょう。しかし、雑務をAIに任せて人事のリソースを増やせるメリットの方がはるかに大きいはず。これにより、人事はより重要な業務に集中できるのです。

 それに、AIは人間の仕事を全て代替できるわけではありません。
 
 確かに、生成AIの進化速度は驚異的です。私もAIに絵を描かせたりして、「これはすごいなあ」とよく感心しています。ただそれは、私が専門家ではないからです。AIが生み出すような平均的・無個性な絵では、プロのイラストレーターとしては通用しないでしょう。ビジネスの世界でも同様で、平均から外れた個性を出さなければ、他社との差別化は図れません。

 そして、AIに人の心は動かせない事実も、AIが人事の仕事を完全には代替できない根拠の1つです。

 あなたには、「どんな内容でも、その人の意見であれば聞き入れる」という存在はいませんか? 私にもいます。例えば、AIから「あなたのデータを分析すると、○○職にピッタリです」と提案されても、その仕事に興味がなければ、私はすぐに却下するでしょう。でも、心から信頼している人に「とにかく○○の仕事をしろ」と言われたら、筋道が通っていなくても、私は納得すると思います。

 人は、論理だけで動くわけではありません。それゆえ、人にしかできない仕事や役割は今後も残り続けるのです。

AIの筋道が通ったアドバイスより、信頼できる人からの魂のこもった助言の方が心に刺さる。

AIの筋道が通ったアドバイスより、信頼できる人からの魂のこもった助言の方が心に刺さる。それが、AIが人間の仕事を完全には代替できない根拠の1つなのです

多様な人材を統合した「石垣型組織」を目指せ

 ところで、人事が本来取り組むべき業務とはなんでしょうか。それは、組織開発に尽きると私は考えています。職場をうまくデザインして人間関係や働きやすさを改善し、組織を活性化して企業全体の成長につなげることが、これからの人事にとって最重要業務になるでしょう。

 ここで人事に目指してほしいのが、「石垣型組織」の構築です。

 これまでの日本企業には、新卒一括採用で入社させた従業員に教育を施し、画一的な人材に育てようとする傾向がありました。例えるなら、同じサイズ・色で統一されたコンクリートブロックを作り、組織という建物を作ろうとする発想です。ただ、人はモノではなく、多様な個性と強みを持つ生きた存在です。どんなに研修や指導を行っても、同じ特徴を持つ人材に変えることは絶対にできません。

 一方の「石垣型組織」は、個性豊かな人々を上手に組み合わせた組織です。

 日本の城跡にある石垣を見ると、大きさや形が全く違う石が組み合わされていることに気付きます。こうすることですき間から水を排出しやすくなり、同時に、高い強度も得ているのだそうです。

 画一化された人材ばかり集めていると、似通った意見しか出なくなります。一方、現代は消費者ニーズが多様化していますから、企業には個性豊かな人々を集めてさまざまな角度からアイデアを生み出し、イノベーションを起こすことが求められています。そのため、画一的な人を集めた組織より、石垣型組織の方が向いているのです。

 ただ、バラバラな形の石をただ積み上げても崩れてしまうのと一緒で、多様な人材を集めるだけでは組織の結束力は作れません。そこで、従業員同士の相性や特徴などを考慮し、パズルのように組み合わせる必要があるのです。その担い手こそが、人事です。

 まっさらな新人を自社の色に染めるという発想は、完全に時代遅れになっています。今は、多様な人材をうまく組み合わせ、組織の力を高めるという考え方に切り替えるべきです。

人事は「社内マーケ的視点」を持つべし

 これからの人事は、「社内マーケティング」の視点を意識すべきだと思います。

 人事職の中には、「働きやすい職場づくりのために施策を打っても、従業員が理解してくれない」「社内アンケートの提出率が低いなど、人事に協力する姿勢が見えない」などと愚痴をこぼす人が珍しくありません。でも、これは捉え方を変えて頂きたいです。

 例えば、新商品の売り上げが悪かった時、マーケティング担当者が「お客さまが商品の良さを理解してくれなかったから売れなかった!」と言い訳したらどうでしょうか。おそらく多くの人が、「それはお前の仕事だろう」と思いますよね。それと同じで、従業員が協力したいと自然と思えるような施策を考えたり、思わず答えたくなるアンケートを工夫して作ったりするのは、人事の仕事なのです。

 大量採用ができ、多くの従業員が長期間働き続けていた頃なら、殿様商売のような人事でも通用したのかもしれません。でも、現代は人気企業でさえ採用が難しくなっていますし、優秀な社員も簡単に転職を目指す時代です。人事は従業員を顧客だと捉えた上で、彼らの働きやすさややる気を高めるサービスを編み出さなければなりません。そういう意味で、マーケティング経験者が人事に異動すると大活躍できるかもしれません。

 逆に言えば、人事の仕事は「究極のマーケティング職」と言えるでしょう。従業員という顧客は、常に目の前にいます。彼らが求めるサービスを知恵を絞って打ち出し、満足度を高めれば、反応をありありと感じられるのです。

 AIの助けを得て業務負担を減らし、組織開発という本業に集中する。そして、従業員という目前の顧客を喜ばせる。人事はそうした、実にやりがいのある仕事なのです。

これからの人事は、従業員を「顧客」と捉えるべし。そして、目の前にいるお客さまを喜ばせるため、知恵を絞って施策を練ることに集中しましょう

これからの人事は、従業員を「顧客」と捉えるべし。そして、目の前にいるお客さまを喜ばせるため、知恵を絞って施策を練ることに集中しましょう

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マッキンゼー、ノバルティス、ほぼ日CFOなど、多様な業界での経験を持つ。現在はエール株式会社取締役として、1on1を通じた組織改革を支援。心理的安全性と対話を重視し、人と組織の関係性向上に取り組むとともに、女性活躍やキャリア自律の推進にも尽力している。
篠田 真貴子
エール株式会社 取締役、株式会社メルカリ社外取締役
篠田 真貴子 講師のプロフィールはこちら

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