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【書評】日本に来たドラッカー 初来日編|山下淳一郎 (著)|同友館 – ノビテクマガジン編集部の本棚
今回の編集部の書評は、ドラッカー専門の経営コンサルティングを行う山下淳一郎氏の「日本に来たドラッカー 初来日編」です。
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日本に来たドラッカー 初来日編
山下淳一郎 (著)|同友館
本書はドラッカー初来日時に開催された経営セミナーの様子を中心に、そこで交わされた質問や会話から、ドラッカーが日本の経営者に何を伝えたのかを学べる構成になっています。他のドラッカー書との違いは、以下3つの「楽しみ」が絡み合っていることが挙げられます。
・ドラッカーを知る楽しみ。
・当時の日本の経営者を知る楽しみ。
・日本の経済界の歴史を知る楽しみ。
さっそく本書の目次をご紹介します。
第1話 ドラッカーの初来日「ドラッカー招聘」
一九五七年 ドラッカーへの講演依頼
- 人間の幸福を脅かすもの
- 人間が人間らしくあるために
- 事業の成功と社会の繁栄
- ドラッカー招聘はこの時決まった
- ドラッカー、羽田に現る
第2話 ドラッカーとの懇談会「これからの働き方」
一九五九年七月六日 東京
- 部下が思い通りに動いてくれない
- 上司の指示はいらない
- 部下の優れている点を見い出せ
- 人間を中心にした組織
- 現実の世界に正解はない
- 海外から見た日本
第3話 ドラッカーの講演「日本は世界の見本となる」
一九五九年七月七日 東京
- 社内で潰される新しい試み
- 日本が行った世界最初の試み
- 二〇〇〇名の経営者が集まった
- メイド・イン・ジャパン
- 日本は経済大国になる
第4話 ドラッカーのセミナー1日目「トップマネジメント」
一九五九年七月十五日 箱根
- 日本の経営者六〇余名が集まった
- 四〇の会社を持っ社長
- ある頭取の一時間半
- 出勤前にデスクで二時間過ごす社長
- 社員三三名が四〇〇〇〇名に
- 事業の成功を決定づけるもの
第5話 ドラッカーのセミナー2日目「リーダーの育成」
一九五九年七月十六日 箱根
- 企業が抱える人材の悩み
- 自社に適した育成プログラムを持つ
- 成果をあげる人に共通する五つのこと
- 経営幹部の意識を高めるには
- 事業継承、トップの継承
第6話 ドラッカーのセミナー3日目「組織の人間関係」
一九五九年七月一七日 箱根
- ささいなことで人間関係は悪くなる
- 働く人の貢献意欲を生み出す
- 血の通う組織をつくる
- 相手に九つのことを尋ねる
- ドラッカーと再会を期す
第7話 ドラッカーの手紙「日本へのメッセージ」
一九五九年八月二〇日 デンバー
- ドラッカーに直接依頼した
- 三顧の礼
- 懸念された通訳
- ドラッカーの自宅を訪問
- ドラッカーからの手紙
日本に来たドラッカー 初来日編/山下淳一郎・著/同友館 目次
目次のナンバリングを見てお分かりの通り、ノンフィクションドキュメンタリーの体裁です。ドラッカーの半生やその人柄、初来日にいたる経緯が描かれる第1話目から、自然とその時代に入り込むことができるようになっています。
ドラッカーの半生の紹介では、彼がドイツのある人物と接触していたことが書かれているのですが、そういった背景を知ってからドラッカーが説く原理原則を知れば、何故彼がそこに思い至ったのかが理解できて腹落ちします。
ドラッカーの言葉の他に、なにより心に残るのは、そうそうたるレジェンド経営者の熱意です。戦後から高度経済成長初期にかけて日本経済を創りあげてきた「時代の経営者」達は、業種は違えど共通の信念に従って行動していることが本書を通じて伝わってきます。
経営の経は、御経の経で「人に喜びをもたらす」意味が込められている。経営の営は「行い」という意味を持つ。経営は「人に喜びをもたらす行い」ということから生まれた。つまり、経営者は、「人に喜びをもたらすことを行う人」を言う。
日本に来たドラッカー 初来日編/山下淳一郎・著/同友館 153ページ
物やサービスを提供して喜んでもらい、その対価としてお金をもらう。当たり前のことですが、それを「需要と供給」といった言葉でまとめてしまうよりもずっと、私たちは何をするべきかが理解できます。
山下淳一郎氏の著書の特徴は、本質的で親しみやすい平易な言葉で書かれていることです。難解といわれるドラッカーも、その真意をわかりやすく記述して「気づき」に導いてくださいます。コンサルティングの現場でも同様に、気づきを促し、経営者自身が、自身の課題を解決できるように導いていくスタイルであることが想像できます。
ドラッカーといえば「経営者のため」と思ってしまいますが、昨今は、次世代リーダーの育成が企業の重要なトピックとなっていることもあり、すべての働く人がこの「仕事や組織の原理原則」を知っておくと、もっと仕事にやりがいや楽しみを見いだせるのではないか。娯楽書でもあり実用書でもある本書を読み終えた時にそう感じました。
全編350ページ弱の書籍ですが、その厚さの印象以上にとっつきやすいです。早い人は数時間で読み終えられるでしょうが、ここはあえて、毎晩一話づつ、当時に思いを馳せながら、自身のビジョン創造の時間にするという読み方もいいかもしれません。
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日本に来たドラッカー 初来日編
山下淳一郎 (著)|同友館