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変幻自在だから強くなれる「プロティアン・キャリア」 田中研之輔 法政大学キャリアデザイン学部教授 一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事

田中研之輔 – プロティアン・キャリア

田中研之輔

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2022年08月29日

田中研之輔 - 変幻自在だから強くなれる「プロティアン・キャリア」

ギリシャ神話に登場する神・プロテウスは、火や水、獣など、環境に応じて変幻自在に姿を変えたそうだ。その名を語源に持つ「プロティアン・キャリア」は最新のキャリア理論の一つであり、変化が激しい現代にあって、個人や企業が生き残るために必須の考え方だといわれている。日本にプロティアン・キャリアの概念を広めた第一人者の田中研之輔氏に、これからのキャリアのあり方について話を伺った。

(※本記事は、2021年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)

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田中研之輔(たなか・けんのすけ)

Vol.32 田中研之輔

法政大学キャリアデザイン学部教授
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事

株式会社キャリアナレッジ 代表取締役社長/UC. Berkeley元客員研究員/University of Melbourne元客員研究員/東京大学 日本学術振興会特別研究員SPD/博士(社会学)一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。27社の社外取締役・社外顧問を歴任。個人投資家。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。『辞める研修 辞めない研修』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『走らないトヨタ』『ビジトレ―今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』など著書・共著25冊。日経ビジネス、NIKKEI STYLEなど、メディアに多数の連載を持つ。

自分の軸を大切にしつつ変幻自在に生きていこう

一つの企業に籍を置き、社内での昇進を目指して働き続け、やがて定年を迎える――。

そうした昔ながらの日本のキャリア観は、まもなく限界を迎えます。終身雇用そのものが制度疲労を起こしていること、働き方改革が本格化していることに加えて、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが決定打となりました。2020年以降、多くの人が「自分のキャリアは自分で守らなければ」と痛感したはずです。

私が提唱している現代版プロティアン・キャリアは、「自分の軸を持ちつつ変幻自在に生きる処方箋」と言い換えることができ、その実現のためにはアイデンティティ(自分らしくあること)とアダプタビリティ(変化に適応する力)が求められます。最も大切なのは、自分の人生を企業任せにするのではなく、主体的・自律的にキャリア形成すること。伝統的なキャリア観に比べると、多くの面で違いがあります(図)。

キャリアの考え方の比較

組織はあくまでも経験を積むための場であり、キャリアのあり方や成否を決めるのはオーナーである自分自身なのです。

そもそもプロティアン・キャリアとは、ボストン大学経営大学院のダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念です。私がこれを翻訳して日本に普及させるにあたって、キャリア資本論という考え方と接続させることで、より深化した現代版プロティアン・キャリアにバージョンアップさせました。「変幻自在に生きる」と聞くと転職をイメージする人が多いですが、決してジョブホッピングを推奨しているわけではありません。重要なのは、キャリアの過程で意識的に能力を蓄積していくこと。経験自体ではなく、そこからどんなスキルや知見を得られたかに着目します。

この蓄積のことを、私は「キャリア資本」と名付けました。

ビジネス資本(基礎的なビジネススキル、問題解決力、変化適応力)と社会関係資本(人とのつながり)に大別され、それらが時間をかけて蓄積されていくことで経済資本に転換されます。スキルや人脈が、いずれは収入アップにつながるとイメージすれば分かりやすいでしょう。

残念なことに、同じメンバーで同じ業務に長年従事しているだけでは、キャリア資本は一定のままです。多くの企業人はこの状態に陥りがちで、キャリアが停滞したまま「仕事がつまらない」という感覚を抱いています。そうした人にこそ届けたいのが、プロティアン・キャリアの考え方。私自身、30代のときにここに救いを見出し、新たな世界に挑戦するきっかけとなりました。キャリアのあり方を一つの企業に預けてしまうのではなく、「自分は今、何ができる?」「次に必要なスキルは?」と考えて動き続けることこそ、主体性を重視するプロティアン・キャリアの肝だといえるでしょう。

エビデンスに基づいた医療のようなキャリア開発支援を

キャリア資本は目に見えるものではありません。そのため、従来のキャリア開発支援は主観的・感覚的なものにとどまりやすく、客観的に効果を測りにくい部分がありました。そこで、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社と組んで開発したのが、社員のキャリア資産を可視化・記録し、複業※のための情報提供も行う「プロテア」というツールです。

独自の設問群によりキャリアを形成する3つの資産項目(生産性資産、活力資産、変身資産)を測定し、基準より高いのか低いのか、一目で分かるようにグラフに表示することで「見える化」しました。プロテアを用いた調査では、複業の経験者は未経験者に比べて、すべてのキャリア資産項目が高いことが分かっています。人間の成長は越境経験(組織の外に行くこと)で促されることがデータ上でも明らかになり、複業の重要性が示される結果となりました。

こうした定点観測によりキャリアのコンディションを科学的に分析した後、各人の状態に合った実践的なキャリア開発支援につなげていきます。例えば、キャリア資本が少ないと判明した社員については個別面談を実施し、「来月までに一度、複業を体験してみましょう」とアドバイスするといったことです。形式的な全体研修を漫然と行ったり、労働集約型の取り組みで教育担当者を疲弊させるよりも、ずっと効率的な組織開発を実現できるでしょう。定期的に診断を行い、エビデンスに基づいた対策を講じるという意味では、キャリア支援は医療に近いものであるべきだと感じています。

Vol.32 田中研之輔

キャリア資本を蓄積できず「仕事がつまらない」と思っている人にこそ、プロティアン・キャリアを届けたい。

キャリアプラトーを打破して人的資本を最大化しよう

プロティアン・キャリアは、個人が意識するだけでなく、組織としても積極的に導入すべき考え方です。その理由は単純で、伝統的キャリアのまま事業を継続していると、いずれは赤字になるのが目に見えているからです。日本では社員のレイオフが難しく、しかも年齢が上がるにつれて人件費が相関的に上昇するのが一般的です。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法で70歳まで就業機会を延長する努力義務が課される中、労働人口のボリュームゾーンは間違いなく高齢化していき、「このままでは経営が持たない」ケースが頻発するはずです。

この状況を打破するためには、今ある人的資本を最大化するのが一番です。特に注目すべきは、50歳前後のミドルシニア層。組織内での昇進・昇格に先が見えてモチベーションが下がりやすいことから、いわゆるキャリアプラトー(停滞)状態に陥りやすく、古い経験則のまま業務にあたることで生産性も低くなりがちです。しかし、プロティアン・キャリアの考え方を導入できれば、確実に変化を起こすことができます。

私が参画したある企業では、50歳以上の全社員に対して1on1ミーティングを実施した結果、77%に具体的な行動変容がみられました。「仕事は与えられるものだ」という固定観念から抜け出し、「この事業/会社を良くするためにどうすればいいだろう?」と本質的に考える習慣ができれば、おのずと生産性や競争力は上がっていくのです。やらされるのではなく、自分らしく能動的に取り組むほうがパフォーマンスを上げられるというのは、感覚的にも理解しやすいところです。数十人規模のベンチャー企業などでは変化が顕著で、2〜3か月で売上が急増する例が少なくありません。

気付いた企業から変化している地殻変動を見逃すな

私が社外顧問として経営戦略・事業戦略・キャリア戦略に関与している企業は、大企業からベンチャー企業まで14社になります。これまでに27社の社外顧問を歴任してきました。

さらに、地方医師会、地方自治体、商工会議所といった企業体以外の組織に講演を依頼されることも少なくありません。国内でプロティアン・キャリアを導入している組織は、業界や業種を問わず急速に増えています。

次々と依頼が舞い込む中で感じるのは、各社が本気で「主体的なキャリア開発のあり方」を模索していることです。ある企業の新入社員研修では、冒頭の社長講話の直後にプロティアン・キャリア講演をしてほしいと依頼があったほどです。

社会に出たばかりの新入社員にさえ「自ら主体的にキャリアを形成しましょう」とメッセージを発信する時代になったことを、あらためて実感しました。

私が2020年3月に設立した一般社団法人プロティアン・キャリア協会でも、より早期からのプロティアン・キャリア教育に力を入れています。

中学生や高校生の段階から、一つの組織で働き遂げる人がマイノリティーになりつつあることを伝え、オーナーシップを持ってキャリア形成することを意識してもらいます。こうした「プロティアン・ネイティブ世代」が着実に増えていくことを考えると、自律的なキャリア形成を応援しているとアピールしなければ、優秀な人材(特に新卒)の採用が困難になっていくでしょう。

どんな組織であっても、将来にわたり伝統的キャリアへ回帰することはあり得ません。

新たなキャリア支援へと舵を切らなければ、その先に待つのは衰退のみ。大きな地殻変動が起こっている今、あなたの企業(そして、あなた自身)は、変幻自在のプロテウスになれるでしょうか?

Vol.32 田中研之輔

もはや伝統的キャリアへの回帰はあり得ない。新たなキャリア支援へと舵を切らなければ、その先に待つのは衰退のみ。

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