室山哲也【第1回】テレビマンから見たダイバーシティ社会 – NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測

NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測

NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測

「みんな違ってみんないい」

NHKクローズアップ現代など、元NHK科学番組のチーフプロデューサーを務めた室山哲也講師が「温暖化」「ダイバーシティ社会」「AI」「自動運転」をキーワードに、科学ジャーナリストの視点で世の中を観測した書き下ろし講師コラムです。

テレビマンから見たダイバーシティ社会

私は40年間、プロデューサーとして、NHKで科学番組を作ってきた。今、つくづく感じることは、メディアが未体験の、大革命期に入ったということだ。

「放送」という言葉は、返り点を打てば「送りっぱなし」と読む。視聴率1%は、100万人以上。視聴率10%の番組では、同時に1000万人以上が同じ情報に触れる巨大なメディアだ。

「テレビジョン」とは「テレ」(離れたところ)「ビジョン」(風景)の合成語で、普通ならみることができない風景や事実を、自宅で、居ながらにして見ることができるため、ある意味、知る権利を市民に開放し、主体的に考える市民を育て、社会の民主化をもたらしてきたともいえる。

しかし一方で、情報を均一化させ、操作することによって、「均一な市民」を大量生産し、高度経済を支える、取り換え可能な部品とさせてきた側面もある。そのメディアの状況が、急激に変わりつつある。

メディアの状況の激変

インターネットの出現で、だれでも自由に情報を発信し、受け取ることができる。やりとりされる情報は玉石混交で、社会を混乱させる落とし穴もあるが、情報が多様化し、誰かによって情報が支配され、コントロールされにくい状況となってきたのは良いことだ。(さらにその先、巨大情報産業による情報占有の問題が再び出てきてはいるが・・)。

これからは「多様化」が重要

私は、これからの時代は、基本的には「多様化」というコンセプトが、大変重要だと思う。そもそも、生物進化そのものが「多様化」の歴史だった。38億年前に地球に生まれた一種(?)の生物から、遺伝子DNAをつくる4つの塩基がランダムに組み合わされ、環境に適合した生き物が生き残り、生物種が増えてきた。

現在、地球には3000万種ほどの生物種がいるといわれているが、自然の淘汰圧の中で遺伝子は多様化し、多彩な生態系がつくりあげられ、生かし生かされ、共存共栄のシステム(人間だけが埒外だが)がつくりあげられたわけだ。

多様化すると、「システム」がしぶとくなる。もし、船が座礁した場合、船倉が一つのなら、全体に浸水して沈没するが、いくつもの船倉に分かれていると、浸水は部分的で、船は浮いたままでいられる。農業でも、単一の作物だけで栽培されている場合、一種の害虫で全滅することがあるが、複合栽培でやれば、害虫の被害は一部にとどめることができる。

トインビーは「新しい文明は、異質の文明の交差点で生まれる」と言ったが、文化も同じ。多様な発想が交差すると、新しい文化が次々と生まれる。シルクロードがその典型だ。現代社会でも、情報の多様化は多彩な価値を生み、しぶとく、未知な可能性に満ちた「智慧」を生み出してくれるのではなかろうか。

多様性の重要さを教えるのは大人たちの責任

「多様である」ということは、生物界が我々に教えてくれている、基本的な大原則なのだ。

しかし、現実には、真逆のことが起きている。典型的なことは、学校での「いじめ」だろう。異質なものを排除し、同質であることを強要する異常な現実。

取材してみると、ラインなどで情報をやり取りするとき、発信者にすぐ返事しないと仲間外れにされると聞いた。この異常な同調圧力によって、子供たちは、ゆっくりと思索を巡らせる時間を失い、人間が持っている本来の「創造的行為」ができない状態となっている。

このような若者が蔓延する社会が、未来を作り上げるダイナミズムを持つとは、私には到底思えない。多様性の重要さをきちんと教えていない、学校や大人たちの責任は重大だといえるだろう。

新しい価値をつくる時代に同質を強要しているヒマはない

司馬遼太郎の著作「坂の上の雲」には、かつて日本が、欧米社会(坂の上の雲)に追いつこうと、懸命に生きた姿が描かれている。しかし、その後、日本は成長を遂げ、ついに欧米に追いついた。目指していた「雲」に追いつき、突き抜け、その後は、「雲の上の坂」の時代だ。もう、私たちには、「どうしたらいいか」を聞く先輩はいない。誰かのまねをする時代を終え、オリジナルでクリエイティブな「日本らしさ」で勝負せざるをえない時代となったのだ。

今後私たちは、「日本とは何か」「日本が持つ価値とは」を真剣に模索し、自ら考え、創造し、その独自な文化やノウハウを、世界各国のそれとぶつけながら、地球上に新しい価値をつくる国にならなければならない。その意味で、「いじめ」のように同調して、思考停止しているヒマはないはずだと思う。

「みんな違ってみんなイイ」

詩人の金子みすずは、詩集の中で、「みんな違ってみんなイイ」と書いている。それぞれが持ち味を出し合って、尊敬しあい、協力して生きる社会の大切さを述べている。臨床心理学者の河合隼雄先生は、「あんた花やってはりまんのん?わたし、河合隼雄やってまんねん」という名言を残した。3000万種の地球上の生命に、深い共感を持ち、進化の海を生きる同士としての発言である。

このような思想は、今後の世界では重要となる。環境問題、エネルギー問題、生物多様性の喪失、格差問題などなど…持続可能な社会をつくり、創造的で豊かなシステムを作り上げていくためには、「みんな違ってみんないい」という多様性に立脚した思考と、絶え間ない行動が求められているのではなかろうか。

講師紹介

室山哲也

室山哲也(むろやま てつや)
日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、元NHK解説主幹、大正大学客員教授、東京都市大学特別教授、科学ジャーナリスト プロデューサー。
テクノロジー、生命・脳科学、地球環境問題、宇宙開発など、「人類と科学技術文明」をテーマに論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土よう塾」(教育テレビ)の塾長として科学教育にも尽力。

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