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岩崎究香【第2回】自分の基準を 相手に押し付けない – 古き良き伝統文化と美が息づく花柳界のOJT
【コラムジャンル】
OJT , お座敷文化 , 伝統文化 , 古き , 基準 , 岩崎究香 , 息づく , 押し付けない , 相手 , 第2回 , 美 , 育成 , 自分 , 舞妓 , 良き , 花柳界 , 連載
2015年03月05日
『自分ができるから相手もできると思うのは大間違いです。』
日本の伝統文化と美を色濃く受け継ぐ京都・祇園で、100年に一度の逸材と謳われた岩崎究香さん。
15歳で舞妓としてデビューし、6年間連続売上ナンバーワンの記録を作ったこともある。
29歳で現役を引退するまでに経験してきたお座敷での数々の出来事や見習い時代のエピソードから、あらゆるビジネスに通ずる現場指導のヒントを探った。
自分の基準を 相手に押し付けない
舞妓・芸妓というと昔は京都出身の人がほとんどでした。しかしいつからか全国から志願者が集まるようになり、それに伴いお稽古の開始年齢も高くなりました。昔は誰しも6歳くらいからお稽古を開始していましたが、今は中学1年生くらいから始めるのが普通。しかしお稽古の開始年齢が高くなると、育成における難点も生じてきます。
というのも、これくらいの年ごろというのは、自我が発達して大人に反抗したい時期。修行の内容に不満を抱き、素直に受け入れられないことが多いのです。特に抵抗を示されるのはトイレ掃除。京都の文化ではトイレ掃除は跡取りの仕事であり、トイレをきれいにすることには「自分の心と精神を磨く」という意味合いがあり、大切な修行の一つなのです。しかしそれを知らない子どもたちからは「トイレ掃除をやらされた」との不平が頻発……。舞妓・芸妓は日本の伝統文化を体現する、いわば“生きた芸術品”。そこにたどり着くために鍛えられた精神と日本文化への深い造詣は、やはり幼い頃からの日常の躾と教育が重要なのです。
お稽古や修行内容に反感を示す子に対して私が心掛けているのは、作業の目的と意味をきちんと説明し、理解してもらうこと。わけのわからないことをやらされると人は不満を覚えますが、それに意味が伴えば話は別なのです。
そしてもう一つ大切なのは、指導する側の基準を相手に押し付けないこと。自分ができるから相手もできると思うのは大間違いです。昔の指導者は怒鳴ったり叩いたりというのは日常茶飯事でしたが、相手から反感を持たれるような態度や言葉遣いは逆効果だと私は思うのです。そこで自分が指導する立場になった時はまず自分が“してみせる”ことを大事にしてきました。相手を否定せず「私もこれできなかったのよ、じゃあこうしてみようか?」と提案したり、「お座敷が終わった後、うちに来たら?」と、夜遅くのレッスンにも喜んで付き合ったりしていました。
年の離れた後輩に指導をするのに苦労をするのはどの世界でも同じかもしれません。でも、時間がかかるのは当たり前のこと。自分の価値観を押し付けず、相手が目的を理解して受け入れてくれるまで、気長に丁寧に指導することが大切なのではないかと思います。
私がお姐さん芸妓から学ばせてもらったこともたくさんあります。芸妓に年齢の上限はありませんので生涯現役を貫く方も多く、熟練の技を持つお姐さん芸妓はたくさんいらっしゃいます。尊敬する先輩芸妓の舞を見たいがために、私はよく先輩芸妓の所をまわって「姐さん、今日の○時からのお座敷に一緒に出てくれませんか?」と誘っていました。私からすれば先輩芸妓の舞を見てその技術を盗むことができ、先輩芸妓からしてみればお座敷に呼ばれた分 お花(*3)が付わけですから、お互いにメリットのある話なのです。
また、芸妓はお花を付けてもらってお客様と外にお食事に行くことがよくあります。その時にお客様と二人きりで行くのは厳禁で、二人以上でご一緒させてもらうのがルール。様々なお食事の席で先輩芸妓の食べ方を見て、たとえば「フランス料理はこうやって食べるのか」という風に食事のマナーを学んでいました。自分が後輩を連れて行く時にも「私の食べ方を真似して、見て覚えるといいよ」と言っていました。
*3 お客様が舞妓・芸妓をお座敷に呼ぶ料金のことを「お花」「お花代」「お線香代」と言う。
(※本記事は、2014年4月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
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