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坂本光司【第3回】できることから実践 – 企業経営の真の目的は、「人を幸せにする」ことです。
企業経営の真の目的は、「人を幸せにする」ことです。
「人材育成には「お金」と「時間」の2つがモノサシになります」
著書『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズが累計65万部を突破。これまでに7000社以上の企業を訪問し、調査を実施している法政大学大学院の坂本光司教授に、企業経営の在り方、優良企業の共通点、人材育成に必要なモノサシなどをうかがった。
岩崎知佳 ≫ インタビュー 櫻井健司 ≫ 写真 田村知子 ≫ 文
(※本記事は、2015年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
できることから実践
―人材を育成するうえでは、どんなことを大切にしたらいいでしょう?
人材育成には「お金」と「時間」の2つがモノサシになります。具体的には、社員1人当りに年間で10万円以上、総実労働時間の5%以上は教育のために確保してほしいですね。
時間はわかりやすく言うと、年間の労働時間が2000時間だとすれば100時間。つまり、1カ月約8時間を教育に費やしてほしい。厚生労働省のデータによれば、教育訓練費の平均値は、大手企業でも数万円、中小企業では数千円と、教育にはあまりお金をかけていないのが実情です。しかし、これくらいの時間とお金をかけて人を育てていかなければ、会社も伸びてはいかないと思いますね。
―先生は、今の学生の就職活動の動向を、どのように捉えていらっしゃいますか?
近年は景気が上向きになってきて、企業では人材の確保が難しくなっていますよね。そうした中で学生が企業を選ぶ時には、残念ながら多くはブランド志向です。上場しているか、給料が高いかといったことは、本来は関係ないんですけどね。
その一方で、そうしたことではなく、人を大切にする経営をしているかどうかをモノサシにして就職活動をする学生も増えてきています。今年3月に研究室の学生たちと、人を大切にし、将来性のある会社かどうかの指針となる『「日本でいちばん大切にする会社」がわかる100の指標』を出版したのですが、法政大学の生協では、『就職四季報』よりも売れているそうです。これも、学生たちが企業を選ぶうえで大切にすべきことに気づき始めた表れだと思いますね。ですから、人を幸せにする正しい経営を実践していかなければ、企業の未来は危うくなることでしょう。
―最後に、教育担当者や、あらゆる部署の部課長といった、企業で人を育てる役割を担う方々が、自社を人を大切にする会社にしていくためにできることはありますか?
プロジェクトのリーダーでも、部課長でも、考え方は同じです。リーダーの最大の使命は、部下とその家族を幸せにすることであり、管理することではありません。
部下にとって大切なのは、顧客や一緒に働く仲間を幸せにすること。立場は違っても、軸は常に「人の幸せ」なのです。
大手企業では、会社全体を変えることは難しいかもしれません。でも、ある企業の課長さんは、自分の課の名刺に点字を入れたそうです。そうすることで、顧客には障害のある方にも配慮していることが伝わりますし、その姿勢に関心が持たれて話題が広がることもある。そんなふうに、自分の部署でできることから実践してほしいと思いますね。
坂本光司 – 企業経営の真の目的は、「人を幸せにする」ことです。(了)
プロフィール
坂本光司(さかもと・こうじ)
法政大学大学院政策創造研究科教授。同大学院静岡サテライトキャンパス長。NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長。人を大切にする経営学会会長。「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長。その他、国・県・市町・産業支援機関の公職多数。専門は中小企業経営論・地域経済論・福祉産業論。これまでに約7000社の中小企業を訪問し、調査を実施している。ベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社1・2・3・4』(あさ出版)をはじめ、『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』 (朝日新書、共著)、『21世紀をつくる 人を幸せにする会社』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、共著)など著書多数。
※2015年7月1日当時のプロフィールです。