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宇都出雅巳【第3回】ゲーム・チェンジャーの競争戦略vsシンプルに考える – 速読勉強術のプロ まとめてグルグル10冊書評 season2
【コラムジャンル】
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2016年12月01日
『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』と『シンプルに考える』
今回選んだ2冊は『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ―ルール、相手、土俵を変える』(内田和成編著 日本経済新聞出版社)と『シンプルに考える』(森川亮著 ダイヤモンド社)。
前者はボストンコンサルティンググループの日本代表を務めたあと、今は早稲田大学ビジネススクール教授である内田氏が、その教え子とともにまとめた経営戦略論。後者は日本テレビ、ソニーを経て、あの「LINE」の会社で社長を務めた森川氏による仕事論・経営論。
どちらも広くはビジネス書ですが、本から伝わるエネルギーは対照的で、2冊同時にグルグルすることで、それぞれの特徴をより明確に味わうことができます。
『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』
まずは『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』がどういう本かグルグルしてみましょう。
サブタイトルは「ルール・相手・土俵を変える」とあり、タイトルを合わせてなんとなくの意味は伝わってくるかもしれません。目次をみると、さすがMBA本、コンサルタント本らしく、スッキリと整理されています。
第1章 新たなゲームのはじまり――激化する異業種競争
第2章 相手の儲けの仕組みを無力化する 秩序破壊型
第3章 顧客が気づいていない価値を具体化する 市場創造型
第4章 新たな事業モデルをつくり出す ビジネス創造型
第5章 バリューチェーンを見直す プロセス改革型
第6章 既存プレーヤーはどう対抗するか
おわりに 変化しない者は生き延びられない
第1章のタイトルにある「異業種競争」という言葉から、この本が何について書かれたものか、明確になったでしょう。「ゲーム・チェンジャー」とは、「既存の業界に新たな競争のルールを持ち込むプレーヤー」のこと。そのゲーム・チェンジャーの戦い方を、以下の図のようなフレームワーク(P31)のもと、4類型にわけ、各章で具体的な事例を出しつつ解説しています。
図表1-3 ゲームチェンジャーの4類型
既存の製品やサービス 新しい製品やサービス 既存の儲けの仕組み プロセス改革型
既存のバリューチェーンを見直す
・アマゾン
・セブンカフェ
・ゾゾタウン市場創造型
顧客が気付いていない価値を具体化する
・JINS PC
・東進ハイスクール
・青山フラワーマーケット新しい儲けの仕組み 秩序破壊型
既存の儲けの仕組みを無力化する
・スマホゲーム
・リプセンス
・コストコビジネス創造型
想像力と想像力を発揮する
・価格.com
・オキュラスリフト
・カーシェアリング
最後の第6章はその挑戦を受けるプレーヤーの戦い方を、これまた4類型に基づいて解説しています。くり返しになりますが、非常にスッキリと整理されてわかりやすい本です。この本を片手に自分の会社に当てはめて考えることで、現状の分析や今後の方向性を考えるヒントになってくれることは間違いありません。ただ、それだけで「ゲーム・チェンジャー」になれるのか? というと、「会社」とう組織における意思決定、行動がそんなに単純なものでないことは、すでに会社人として働いている読者の方であればおわかりでしょう。
本書で「ゲーム・チェンジャー」として挙げられている会社にしても、最初から自分たちが「ゲーム・チェンジャー」として意思決定し、行動したわけではありません。その生々しい現場の実情とそこからの経営論を教えてくれるのが、もう1冊の本。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』で「秩序破壊型」の例として挙げられているLINEの社長を務めた森川氏の『シンプルに考える』なのです。
『シンプルに考える』
ということで、今度は『シンプルに考える』をグルグルしてみましょう。
タイトルにある「シンプル」そのままの、「シンプル」な本です。図版も写真も何もなし。非常にシンプルなレイアウトです。そして、内容も「シンプル」。核心をズバリとつくように、「いちばん大切なことは何か」「○○の本質は」といった言葉が並びます。
目次をみても、非常にわかりやすい言葉で、ズバリと核心を射抜く言葉が並び、目次を読んでいるだけで刺激を受けます。とりあえず、章タイトルを並べますと……
第1章 ビジネスは「戦い」ではない
第2章 自分の「感性」で生きる
第3章 「成功」は捨て続ける
第4章 「偉い人」はいらない
第5章 余計なことは全部やめる
第6章 イノベーションは目指さない
なかなか刺激的、挑戦的です。
第1章のビジネスは「戦い」ではない、などは、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』にいきなりケンカを売っているようにも思えますよね。では、森川氏が考える「ビジネス」とは何か? さらに目次から第1章の節タイトルを見てみましょう。
第1章 ビジネスは「戦い」ではない
1 「熱」こそが成功の条件である―使命感をもってユーザーのために尽くす
2 ビジネスのシンプルな本質とは?―「求める人」と「与える人」のエコシステム
3 ビジネスは「戦い」ではない―ライバルではなく、ユーザーだけを見る
4 経営は「管理」ではない―自由こそイノベーションの源
5 「お金」を中心に考えない―価値を生み出すことに集中する
6 会社は「人」がすべて―「すごい人」が「すごい人」を引き寄せる
ここで目につく言葉は「ユーザー」。MBA的に言えば「顧客志向」という言葉になりますが、森川氏の経営論の核はここにあります。いったん目次を離れ、「はじめに」をグルグルみてみると、「ビジネスの本質」について、こう書かれています。
「『ユーザーが本当に求めているものを提供し続けること』。それ以外にないのです。」(P2)
これに続けて、経営の本質が語られます。少し長いですが引用しておきます。
「そのためにはどうすればいいか?
これもシンプルです。
ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める。そして、彼らが、何ものにも縛られることなく、その能力を最大限に発揮できる環境をつくり出す。これ以外にありません。
そのために必要なことだけをやり、不要なことはすべて捨てる。
僕がやってきたことは、これに尽きます。」(P3)
確かにタイトルに偽りなし。非常にシンプルです。
実はこの森川氏、青山学院大学大学院でMBAを取得されています。なので、戦略論などは一通り学ばれているわけです。にもかかわらず、本書にはMBA用語は出てきません。このあたりのことも『シンプルに考える』の中で触れられています。
その内容は次回に解説いたします。
(第4回へつづく)
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速読勉強術、仕事のミスをなくすビジネススキルに関する講演、研修などができるトレスペクト教育研究所代表 宇都出 雅巳 講師のプロフィールはこちら