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江藤真規 – 新しい時代に必要なマインドアップと家庭のあり方

江藤真規 – 新しい時代に必要なマインドアップと家庭のあり方

江藤 真規

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【コラムジャンル】

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2020年07月27日

子育て中の働く親は「withコロナ」をどう生きる?

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、私たちの暮らしや働き方は大きく変化した。とりわけ負担を強いられたのが、子どもを持つ親たちだ。学校や保育園が休校・休園となり、「在宅育児」と「在宅勤務」を同時並行で行わなければならない大変さを味わった方も多いだろう。新型コロナウイルスの第二波への警戒が求められるなか、子育て中の働く親は、どのように「withコロナ」「afterコロナ」に対応していけばいいのか。また企業側が留意すべきこととは――。子育ての質向上・母親の社会進出支援を目的とした学びの場「マザーカレッジ」の主宰者であり、2019年には文部科学省「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業」の有識者会議の委員を務めた、東京大学大学院教育学博士の江藤真規さんに話を聞いた。

江藤 真規(えとう・まき)

株式会社サイタコーディネーション代表取締役/マザーカレッジ主宰/東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)
自身の子どもたちの中学受験を通じ、コミュニケーションの大切さを実感し、コーチングの認定資格を習得。現在、講演、執筆活動などを通して、教育の転換期における家庭での親子コミュニケーションの重要性、母親の視野拡大の必要性、学びの重要性を訴えている。 著書は『勉強ができる子の育て方』『合格力コーチング』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『勉強が好き!の育て方』(実務教育出版)、『ママのイライラ言葉言い換え辞典』(扶桑社)など多数。

母親たちから届いた、不安の声

編集部

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの自治体で学校や保育園が休校・休園となり、在宅で子どもの面倒を見ながら働かなければならない悲痛な声が、あちらこちらで聞かれました。江藤さんのもとにも、たくさんの親御さんからの声が集まったそうですね。

江藤真規

「これは大変なことになったぞ……」と思いました。親は会社で働き、子どもは学校や保育園で過ごすという日常が、劇的に変わってしまったわけですから。

きっと各家庭で大変なことが起きているだろうと。集まった声を聞くだけじゃなく、こちらから積極的に声を拾いたいと、私が主宰する「マザーカレッジ」を中心にWebでのアンケート調査を行いました。

編集部

アンケート調査からは、どのようなことがわかったのでしょうか。

江藤真規

調査では、母親たちの2つの不安が見えてきました。「未知のウイルスに対する不安」と「先が見えないことに対する不安」です。

前者は、子どもの命をどう守っていけばいいのかという危機感。後者は、「在宅勤務と在宅育児をどう両立すればいいのか」「オンライン教育で本当に大丈夫なのか」という不安や懸念です。

編集部

「この状況が、いつまで続くのだろう……」と思いながら、無理やり、在宅勤務と在宅育児を継続していた人が多い印象です。

江藤真規

そうですね。そもそも未就園児や小学校低学年の子どもは、集中力が続きません。遊ぶにしても、勉強をするにしても、親のかかわりが必要です。たとえ、学校や学習塾がオンラインで授業を配信してくれたとしても、結局、親が付き添わなくてはならない。デジタル機器も親が設定しなければいけませんしね。ここに親の苦労がありました。

編集部

オンライン教育への不安というのは、どのようなものでしょう?

江藤真規

これは皮肉な話でも、あるのですが……。これまでどんな授業が行われ、先生がどのような指導をしていたか、親はほとんど知らなかったわけです。ただ、このコロナ禍で授業の様子が丸見えになってしまった。

「この授業で大丈夫なの?」「わが家には合っていないのでは?」と不安になってしまった親御さんもいたようです。加えて、親自身も生徒としてオンライン授業を受けた経験がほぼなく、その価値が見えにくい側面もあったかと思います。お互いに慣れるまで、ある程度、時間が必要ともいえます。

暮らしと仕事と学びが家庭に集中したステイホーム

編集部

新型コロナウイルスの第二波への警戒も求められるなか、子育て中の働く親は、どのように「withコロナ」「afterコロナ」に対応していけばいいのでしょう。

江藤真規

家庭のあり方、家庭という場の捉え方が、大きく変わりましたよね。家族の構成人数やお住まいの地域によっても違いはあると思いますが、たとえば都心の核家族であれば、これまで家庭という場所はすごく「閉ざされた空間」でした。家庭は外の世界を忘れられる場所。ごはんを食べて、お風呂にはいって、寝て、また明日外に出ていくための準備をする場所だったわけです。家庭の中と外で、はっきりとした境界線が引かれていました。

しかし、このコロナで、あらゆることが家庭に持ちこまれた。家庭で仕事をし、勉強をし、生活もする。外の世界との境界があいまいになった今、あらためて「家庭の哲学」や「ルール」を再構築する必要があります。

これまで、なんとなくお母さんが料理をして、お父さんがゴミだしをして…と繰り返してきた日常のあたりまえを見直さなければなりません。そのためには、「私たちはどんな家庭を築きたいのだろう?」「子育てで大切にしたいことは何だろう?」といった、家庭内の哲学のようなものを考えることが大切だと思うのです。

編集部

家庭ごとに大切にしたいことを再定義し、新しい役割分担やルールづくりをしていくわけですね。一方で、夫は一日中、在宅でオンライン会議に出席していて、日中の子育ては妻に任せきり。妻は深夜に仕事をするのが新しい日常になっているという話も報道などで目にします。

江藤真規

仕事と生活を、これまでのように切りわけて考えていくと、家庭はまわりません。ポストコロナのニューノーマルをつくっていこうとよく言われますが、暮らしのなかの仕事もその一例だと思います。

「仕事と暮らし」をわけて考えるのではなく、「暮らしの一部としての仕事」、「暮らしを起点にした仕事や学び」を考えることが大切です。もしかしたら、仕事と生活が分断されていた、従来の日常のほうが異常だったのかもしれません。異常性のある枠組みのなかで、女性は「社会で働こう」「子どもを産み育てよう」と言われてきたわけですから、やはりみなさん無理をしていましたよね。

編集部

暮らしを起点に仕事をするうえで、大切になることは何でしょう。

江藤真規

暮らしを起点に仕事をするとなると、家族間の相互理解や連帯感が欠かせません。見えない未来をつくっていくうえで大切なのは「マインドアップ」の考え方。一人ひとりの心の状態がポジティブであること。「これからどう生きたいか」、未来志向型で考えられることが、とても重要になってきます。

マインドアップに有効なのは、誰かと繋がる、ということです。家族ととにかく話す。「私はこう思う」「あなたはどう思う?」と対話を重ねる。そうやって連帯感を醸成しながら、相互理解に基づいた役割分担や家族のルールをつくっていってほしいと思います。

そしてもう一つ、大切なのは、「家庭の‟外”」と繋がること。コロナの感染が拡大していた時期に、アンケート調査で「子育ての困りごとを誰に相談していますか?」とお母さん方に聞いたところ「学校や学習塾の先生」と回答したのはたったの10%でした。これは従来どおりの傾向ではありますが、「家庭のなかにある問題を家庭のなかだけで解決しよう」という風潮は強いです。

ただ、職場や学校をはじめ、あらゆる物事が家庭に集中している今、家庭のなかだけでは問題を解決するのは困難。家庭が、職場や学校、地域社会ともっと積極的に繋がることが問題や不安を解消するきっかけになるのではないでしょうか。

大きな変化にさらされている子どもたちへ、親ができること

編集部

親だけでなく、休校やオンライン授業、分散登校など子どもたちの生活も急激に変化しています。子どもへの接し方で気をつけるべきことはありますか。

江藤真規

子どもも、すごくストレスを抱えていますよね。口には出さなくても、大きなストレスを抱えています。言動が荒々しくなったり、保育園や学校で問題行動を起こしたりする事例も聞きますね。親としては、やはり「対話」が重要なのだと思います。

家庭は、ソーシャルディスタンスを気にしなくていい唯一の場所。対面で、しっかり子どもの表情を見ながら、時にはハグをしながら、話をよく聞いてあげてほしいです。子どもに対して親がやってあげられることって実は少ない。どんなに小さくても子どもは子どもなりの考えを持っています。「コロナの時代をどう生きていくか」を一緒に考えてみてもいいと思います。

先日、保育の国際シンポジウムに参加したときに、興味深い海外の事例を聞きました。ある保育園で子どもが描く絵が変わってきたそうなのです。

たとえば、青い色のお花をいっぱい描く子がいたり、とってもカラフルなマスクの絵を描く子がいたり。青は、医療従事者を象徴する色。おそらく子どもなりに、「いまお医者さんや看護師さんが頑張っている!応援したい!」という気持ちを持っているのでしょう。

日本でも、マスクやフェイスガードをつくって寄付する学生のニュースを見聞きしますが、そのようなお子さんがいる家庭では、「いま社会でなにが必要とされているか」といった対話が十分になされているのではないかと思います。子どもを、守ってあげるだけの対象として見るのではなく、「社会を共に生きる一員」だと捉える意識が大切なのではないでしょうか。

編集部

先ほど、「家庭の‟外”」と繋がる大切さについて話してくださいましたが、それは親だけの話ではなく、子どもと一緒に「家庭の外を見る、社会に関心を寄せていく」ことが大切なのですね。

江藤真規

本当にそのとおりで、それが子どものストレスを緩和したり、心を守ったり、学ぶ意欲を引き出すことにも繋がるはずです。

今、オンラインでできることが、どんどん広がっています。日本のみならず、世界の情勢も、簡単に知ることができる。親の意識次第で、子どもの世界をぐんぐん広げられます。親も子も、全員が社会の参加者であり、担い手であり、作り手なのだという意識が大切です。

家庭の事情に耳を傾けることが、社員支援の第一歩

編集部

「withコロナ」「afterコロナ」の時代に、子育て中の従業員を抱える企業側に留意してほしい点にはどのようなことがありますか。

江藤真規

いろいろな家庭があることを理解してほしいというのが一番でしょうか。「子どもが〇歳なら家で勉強できるだろう」「奥さんが専業主婦だったら通常勤務できるでしょう」という話ではなく、なかなか口にしづらいことも含めて、いろいろな家庭の事情があるわけですから、まずは「相手理解」から始めていただきたいのです。

いくらテレワークを導入したとしても、家庭ごとに子どもの年齢や気質も違えば、wifiの環境、オンライン授業の進み具合もすべて異なります。従来通りの勤務時間や会社のルールをそのまま家庭に持ちこむのは、やはり限界があります。家庭の環境や状況を理解したうえで、最適な働き方を模索していく。まさしくダイバーシティの実現が求められています。

もちろん、企業によってできること、できないことには差があるでしょう。しかし、働く側としては、少なくとも「会社が理解をしようとしてくれている」と感じられるかどうかが重要です。対応ひとつで、働く意欲はまったく違ったものになります。

編集部

部下をマネージメントする管理職も、求められる能力に変化がありそうです。強いリーダーシップで部下をけん引する管理職よりも、密にコミュニケーションをとり、状況にあわせて柔軟に対応を変えられる管理職のほうが求められているとも聞きます。

江藤真規

そう思いますね。テレワークって、一人で仕事をしているわけですが決して個人作業ではありません。

孤独になりがちな自宅での仕事で、「いかに組織のつながりを感じられるか」「仕事のライブ感を味わえるか」が肝になります。オンラインでちょっとした雑談をしたり、個々人の事情に配慮して仕事の配分を変えたり。とにかくみなさん、今、とても話したいし、繋がりたがっています。

これはコロナ禍ならではの変化です。だからこそ今、組織を強くしたり、より良い働き方を模索したりする、いい機会なのです。

編集部

ただ一方で、緊急事態宣言が解かれたあと、テレワークなどをやめ、従来どおりの働き方に戻る企業も出てきています。

江藤真規

このコロナを新たなチャンスに繋げていこうとする企業と、いつか事態が終息するだろうと捉えてなんとか今をしのごうとする企業で、対応は大きくわかれるのだと思います。

学習塾の支援を行う仕事柄、親御さん向けに行ったアンケートと同様に、学習塾に対してもアンケート調査を行いました。驚くべきことに、ある学習塾では、1年分の授業動画をすべて撮り終えていました。オンラインで完結できる授業は早々に録画しておき、これから先、もしも第二波・第三波がきたら余った時間を使って、保護者や子どもとの面談、つまり心のケアに時間を割いていくというのです。この企業は、完全に新しい時代にシフトしているなあと感じました。非常時の対応にこそ企業姿勢は色濃くあらわれます。

これは、業種や組織規模、資金力の問題ではなく、経営者が「何を目指しているか」「どこを見ているか」の違いでしょう。そして新しい時代を見据える組織には、必ず、その中心に若者がいます。権力や地位にあぐらをかいている時代は終わりました。若者の声を聞き、共に手をとって、新しい時代を築いていくときなのだと感じます。

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