中原淳【第2回】OJTによる予備訓練とワークショップがマネージャーの育成・支援につながる – 仕事の学びを科学する経営学習論

中原淳 仕事の学びを科学する経営学習論

マネージャーをヒアリングしていると、職場でのコミュニケーションの難しさを暗喩するエピソードに出会うことがよくあるという。現場ではいったい何が起きているのだろうか。

近著『経営学習論 仕事の学びを科学する』で企業の人材育成を体系化する一方、数多くの現場のヒアリングを重ねて、ビジネスパーソンの人材育成の悩みと向き合い続ける中原淳。学問とリアルの両方を知り尽くす中原が、今、精力的に取り組んでいるテーマが「実務担当者からマネージャーへの移行(マネージャー育成)」だ。数あるテーマからなぜ、マネージャー育成にこだわるのか? 「中原にしか見えないもの」にフォーカスしてインタビューを敢行した。(4回連続でお届けします。)

(※本記事は、2013年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。(記事中の年齢、肩書きなどは2013年取材時のものです。)

OJTによる予備訓練とワークショップがマネージャーの育成・支援につながる

マネージャーをヒアリングしていると、職場でのコミュニケーションの難しさを暗喩するエピソードに出会うことがよくあります。たとえば、先日お会いした方は、パートさんたちへの差し入れは、気の利いたお店の新製品のゼリーかプリンじゃないとダメだと言うんですね。

どこにでもあるようなお店のシュークリームでは飽きられてしまう。ようは、新製品ならそれが話題になって職場全体が盛り上がるというわけです。このちょっとしたことから、マネージャーが、周囲に対していかに気をつかっているかが垣間見られます。これは一つの例で、マネージャーがコミュニケーションで工夫しているエピソードは本当に多い。それでもうまくいかずに悩んでいる。

会社の支援なしに、マネージャーは成立しなくなっている

経営のフロントラインに立つマネージャーは、教育面では、会社が全面的に支援する必要のないポジションと考えられてきました。だから、階層別研修くらいで済んでいた。でも、今は違います。会社の支援なしに、マネージャーは成立しなくなっています。こういった環境の変化に気づきはじめている企業は、役職定年になった経営層や支店長経験者を現場に戻すメンター制度などで、マネージャーをバックアップしているわけですが、それだけでは足りないと僕は感じます。

マネージャー支援にはマネージャーになる前の予備訓練が必要

マネージャー支援においては、そのポジションについてからのフォローだけでなく、マネージャーになる前の予備訓練が必要です。「あなたはマネージャーです。今日から複雑なコミュニケーションをしてください」といきなり言われても、できるわけがない。だからといって、マネージャーの予備訓練を階層研修で代用しようとしても根本的な解決にはならない。なぜなら、コミュニケーションは、実践の繰り返しによって身につくため、短期間の研修に不向きだからです。

マネージャー予備訓練の解決策 OJT

現在の企業の枠組みの中で、マネージャーの予備訓練に代用できるものがあるとしたらOJTです。OJTのリーダーや指導員に求められるスキルは、マネージャーのそれにとても近い。忙しい時間の中で後輩の指導をする、わかりやすくかみ砕いて説明をする、継続的に本人にフィードバックするといった業務は実はマネージャーに求められるものと一緒なんです。

そういった意味で、これからのOJTは、「若い世代を育成するため(後輩側)」、「マネージャーを育成するため(先輩側)」の両方の視点からその必要性が語られるべきだと思います。業績が悪くなっても、社員教育の方針転換があっても、OJTだけは守っていく、そういう社員教育の軸のような存在にすべきです。

ある時期、成果主義が多くの企業で取り入れられ、OJTが希薄になったこともありますが、同じ間違いを繰り返してはならない。人というのは、振り子のようなもので、両極のどちらかしか意識できないものです。「成果を出す」と「後輩に教える」という両極があって、会社から「とにかく成果を出せ」と言われたら、そっちにだけ意識が言ってしまう。それにより、職場に埋め込まれて「お互いに助け合う」、「周囲の面倒を見る」という人材育成の仕組みが、急速に失われました。この職場に埋め込まれていた人材育成の仕組みは、日本経済を支えていた面があった。

第2の解決策 ワークショップスタイルの学習

第2の解決策として考えられるのは、階層研修と完全に切り離して行うワークショップスタイルの学習です。たとえば、階層研修では「個々の部下に合わせてモチベーションをあげるコミュニケーションを」といったことが語られますが、さきほどお話したように職場環境は多様化しています。パート、契約社員、正社員それぞれへの対応は変わってくる。そこに年齢の要素も加わってくる。こういった細かいことまで階層研修でカバーするのは難しいため、独立した形の、特にフォローアップ形式でのワークショップが必要だと考えます。

コミュニケーションは万能ではない

社員教育の担当者に注意していただきたいことは、いくら会社が支援したり、本人が努力しても、「コミュニケーションは万能ではない」ということです。コミュニケーションには溝があって当たり前なんです。本質的にこの溝を解消するのは難しい。音楽、映画、ファッションなど、世代ごとに体験してきたことすべてが違うわけですから、年齢が10歳も離れれば、価値観や感覚が相当違う。このことを無視して、コミュニケーション強化で一点突破しようとすれば必ず支障が出てきます。コミュニケーションには溝があることを前提に、「だからどうすればいい?」と考え、丁寧に仕組みづくりをしていくことが重要です。

少しずつでもいいので、マネージャーのてこ入れを

ここまで、マネージャーの支援の必要性について話してきましたが、社員教育の担当者にこのようなお話をすると、「そうはいってもワークショップの費用は階層研修の費用では落ちませんよ。だから現実的にはできません」といった反応もあります。今までなかったものに尻込みする気持ちもわかりますが、それでもやる勇気を持ってほしい。

ご自身の実感でマネージャー支援は必要ないと思うならそれでいい。しかし、今、マネージャーに元気がない。成果をだせるマネージャーが少なくなっている。あるいは、そもそもマネージャーへのなり手が少なくなっているとお感じであるならば、少しずつでもいいので、マネージャーのてこ入れを始めた方がよいのではないでしょうか。

(第3回につづく)

(※本記事は、2013年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。記事中の年齢、肩書きなどは2013年取材時のものです。)

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