宇都出雅巳【第8回】ひきこもりと企業家 – 速読勉強術のプロ まとめてグルグル10冊書評

速読勉強術のプロ宇都出雅巳のまとめてぐるぐる10冊書評

今回取り上げるのは

『ひきこもれ―ひとりの時間をもつということ』(吉本隆明著)と、『「俺のイタリアン」を生んだ男―「異能の企業家」坂本孝の経営哲学』(尾崎弘之著)です。

ひきこもれ

まずは、『ひきこもれ』。若い人には吉本隆明という名前を聞いてもピンとこないかもしれません。以前は「吉本ばななさんのお父さん」なんていう説明もされていましたが、今ではそれでもわからない人も多いでしょう。そもそも吉本隆明さんがどういう人かは、ググってもらうことにして本の内容に入ってきましょう。

本書は、軽く書かれた「ひきこもり」にまつわるエッセイのような内容です。インタビューをまとめたものですね。もともと2002年12月に出版された単行本を2006年12月に文庫化されたものです。

「ひきこもり」が社会問題となり、なんとか「ひきこもり」から抜け出してもらおうというのが普通の考えのところ、「ひきこもれ!」というタイトルが挑発的です。世の中の常識に対して、逆の視点を示そうという本です。サブタイトルのとおり、ひきこもり=「ひとりの時間をもつということ」とプラスにとらえています。

例のごとく、目次の章タイトルを眺めてみると・・・・・・

第1章 若者たちよ、ひきこもれ―コミュニケーション能力を過大視するな
第2章 不登校について考える―「偽の厳粛さ」を子どもは見抜く
第3章 こどものいじめ、そして死について―「傷ついた親」が「傷つく子ども」をつくる
第4章 ぼくはひきこもりだった―きらめく才能よりも、持続する力が大事
第5章 ひきこもりから社会が見える―ぼくがいま考えていること

前半の3章は「ひきこもり」、そことも絡む「不登校」、そして同じく問題として語られる「いじめ」について、吉本隆明さんなりの普通とは違う考え方が示されます。そして後半はご自身の「ひきこもり」体験が語られたあと、最後の章はタイトルこそ「ひきこもり」に結びつけてはいますが、実質はサブタイトルにあるように吉本さんが諸々考えていることをまとめた内容になっています。

「こんな見方もあるのか!」と新たな視点を得るために、非常にいい本だと思います。どんな新たな視点が語られているか、簡単にみていきましょう。

第1章のキーワードは「意味」に対する「価値」。
大勢の人とコミュニケーションして生まれるものは「意味」でしかなく、そこには「価値」はないと吉本さんは言います。そして「価値」を生み出すためには「一人で過ごすまとまった時間」が必要であり、そこが「ひきこもれ」という主張につながっていくんですね。

「価値を生み出すためには、絶対にひきこもらなくてはならないし、ひきこもる時間が多い人は、より多くの価値を増殖されていると言えます」
―本文引用―

ひきこもっている人、内向的な人には救いになる言葉になるかもしれません。
ただ、それが今問題となっているような「ひきこもり」という、自分の部屋にこもって出てこないという状態が、「一人で過ごすまとまった時間」になっているかはかなり疑問ですね。ネットもあるなかで、本当に「一人」になっているかどうか? また、そこまでしないと、「一人で過ごすまとまった時間」は持てないのか? 突っ込みだすと、かなり強引な主張であることがわかります。

吉本さんも「孤独」という言葉も本の中で使っていますが、「孤独」というものが大事なものであることは、古今東西、語られてきたことのように思います。最近の身近な本でいうと、教育学者・齋藤孝さんの『孤独のチカラ』(新潮文庫)、心理学者・諸富祥彦さんの『「孤独」のちから』(海流社)があります(お二人とも明治大学文学部の先生ですね)。

おそらく、吉本さんが言いたいことも、世の中で社会問題になっている「ひきこもり」のススメではなく、「孤独」のススメなんだろうと思います。実際、第4章のご自身の「ひきこもり」体験で語られているのは、銭湯やお祭りに出かけて感じた「大勢の中の孤独」体験だったりします。ただ、「孤独のススメ」だとありきたりですから、社会問題化して注目を集める「ひきこもり」に結びつけて表現した本といえそうです。
最後に、不登校といじめについて、吉本さんが反常識的?な主張を掲げているところをご紹介しておきましょう。

まずは、不登校の原因について。

「とにかく教師は生徒に向き合うべきだ」という考えには、子どもを「指導」してやろうという、プロを自任する教師の、ある種思いがあがった気持ちがあります。そんなことをしなくても、毎日後ろ姿を見ているだけで、子どもはいい先生を見抜きます。自分の好きな先生を見つけて、勝手に影響を受けていくのです。 それを、向き合って何かを伝えようとか、道徳的な影響を与えようなどとするから、偽の厳粛さが生まれ、子どもに嫌な圧迫感を与えるのです。不登校が長引く原因も、こんなところにあるのではないでしょうか。
―本文引用―

そしていじめの原因について。

いじめとは、傷ついている子ども同士の間で起こる出来事なのです。 では、子どもの心の傷の原因は何なのか。 やはりそれは親だと言わざるをえません。育ってきた過程において、親との関係の中で傷つけられているのです。 ただしぼくは、ここでいう「傷ついた子ども」が、親が子どもに対して行った言動によって傷ついたというふうにはとらえていません。(中略) 問題は、親が子どもにどう接するかではなく、親自身の心の状態がどうであるのか、ということなのです。
―本文引用―

『俺のイタリアン』生んだ男

次は、「ひきこもり」とは真逆と言っていい人が多い、企業家を描いた、
『俺のイタリアン』生んだ男―「異能の企業家」坂本孝の経営哲学』です。

『俺のイタリアン』とは立ち飲み食いスタイルで高級料理という全く新しいイタリア料理店で、テレビでもかなり取り上げられたのでご存じの人も多いでしょう。そしてこれを立ち上げたのが、坂本孝さん。あの古本屋チェーン・ブックオフの創業者でもあります。本書はその「坂本孝」について、ベンチャー経営を専門とする東京工科大学教授・尾崎弘之さんがその秘密を解説したものです。

目次を眺めてみると二部構成となっています。前半が坂本さんがなぜイノベーションを起こして起業できたのか、そして後半が起業した会社を経営していく手法・哲学を解説しています。

第一部 『ブックオフ』を『俺のイタリアン』につなげたイノベーション

1)『俺のシリーズ』と「イノベーターDNA」
2)一見無関係なものをマッチングさせる
3)現状に異議を唱える質問をする
4)周囲を観察して洞察やアイディアを得る
5)多様なネットワークから情報を得る
6)新しいアイディアを常に実験する

第二部 「異能の起業家」坂本孝の魅力

1)「坂本孝」の起業家DNA
2)「利他主義」で人を動かす
3)愛情と夢を与える
4)役割と裁量を与えて人材を使いこなす

なんだかキレイにまとまっているなあと思われた方もいると思いますが、それもそのはず、第一部にはそこにも出てくる「イノベーターDNA」というフレームワークを元に整理されたものです。

これは、『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』(どちらも翔泳社)などの著書があるハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授をはじめとするグループが行った研究によるもので、新しいアイディアによって価値を創造していく「イノベータ」と呼ばれる人に共通する5つのスキルからなるものです(これは『イノベーションのDNA』(翔泳社)にまとめられています)。その5つが「マッチング思考力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」であり、第一部の各章がそれぞれに対応し、それに関連する具体的エピソードがまとめられています。

また第二部は京セラの創業者で、最近ではJALの再建で再び注目を浴びた稲森和夫さんの経営哲学・「利他主義」、そして「愛情・夢の付与」「裁量の付与」という三つの柱で整理されています。あとの二つは、おそらく著者の尾崎弘之さんがご自身のベンチャー経営の研究から導き出されているものだと思います。

このように、ベンチャー経営の研究者が書かれているので、スッキリと整理され読みやすいものになっています。具体例が豊富なイノベーション理論、経営哲学の解説書といえるでしょう。

ただ、既存のフレームワークに当てはめて分析・編集したものなので、『俺のイタリアン』、「坂本孝」ならではの新たな発見(イノベーション)は少ないといえるかもしれませんが……。

『ひきこもれ』も『『俺のイタリアン』生んだ男』を並べてみる

今回取り上げた『ひきこもれ』も『『俺のイタリアン』生んだ男』も、「価値を生み出す」という側面を語っているという面では共通ですね。ただ、分野が異なることもありますが、価値を生み出すために、一方が「ひきこもり=一人で過ごすまとまった時間」の必要性を説いているのに対し、一方は「マッチング思考力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」など、多くのヒトやモノ、出来事とのコミュニケーションを説いていて、対照的です。

この真逆とも言える本を組み合わせると新たなイノベーション?が生まれるかもしれません。
例えば……

●一見「ひきこもり」に見える吉本隆明の「マッチング思考力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」とは?
●異能の起業家・坂本孝を生んだ「一人で過ごすまとまった時間」

など……

本とはこうやって異質なものを組み合わせて何か新しいアイディア、イノベーションを手軽に生み出せるツールと言えるかもしれません。

最後に、読書に絡んで浮かんだ問いです。

●読書の時間は「一人で過ごすまとまった時間」になるのでしょうか?
●どういう読書を心がければ、「一人で過ごすまとまった時間」になるのでしょうか?
●読書は「イノベータDNA」の5つのスキルを伸ばしてくれるのでしょうか?
●どういう読書を心がければ、5つのスキルを伸ばせるのでしょうか?

問いは尽きませんね。

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速読勉強術、仕事のミスをなくすビジネススキルに関する講演、研修などができる宇都出 雅巳トレスペクト経営教育研究所代表 宇都出 雅巳 講師のプロフィールはこちら

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